IP活用

フジテレビの開局15周年を記念し1974年に放送開始されて(当時の名称は『FNS歌謡祭音楽大賞』)以降、毎年の恒例番組となった『FNS歌謡祭』。今年も今をときめくさまざまなスターが勢ぞろいするのですが、一風変わったアーティストも登場します。
パペットスンスンはSNS発のパペット人形のキャラクターながら、楽曲『とてと』を発表するなどアーティストとしても活動しており、今年2025年はFNS歌謡祭にも出場することが決定しているのです。
くわえて同月からTOKYO FMにて単独のラジオ番組「パペットスンスンのDJ SUNSUN」が始まることも決定。キャラクターというよりもクリエイターとしてヒットコンテンツを生み出しているように感じられます。
スンスンが初めて動画を投稿したのは、今から6年前となる2019年。その年の末ごろからコロナウイルスが猛威をふるい、ステイホーム期間と相まってデジタルカルチャーがそれまで以上に盛んになるので、SNSから生まれたキャラクターが人気を博すということ自体は、今の時代には珍しいことではありません。
ですが、スンスンにはそれだけではない、思わず語りたくなるような突出した魅力が見られるので、言及していきたいと思います。

タレント×マーケティングで
成果を最大化
パペットスンスンは、その名のとおりパペット人形のキャラクター。各公式SNSのプロフィールには「6才のパペット」(原文ママ)と書かれており、ゾンゾンという祖父もいることから、パペットというのは一つの種族であり、年齢を重ねることがわかります。実際、パペットの国である「トゥーホック」に住んでいるそうです。
手がけているのは、キャラクターIPを生み出し、育成まで行うCHOCOLATE CHARACTER LABEL(チョコレイトキャラクターレーベル)。生みの親となる制作者の個人名までは明かされておらず、それもまた戦略による判断かもしれません。
(2025年12月の現時点では声優も公表されていませんが、制作者自身が担当しているのではないかと憶測する声が多数あがっています)
冒頭で触れたとおりFNS歌謡祭にアーティストとして出場するなど、スンスンはキャラクターではなく一人(一匹?)のクリエイターとして接する向きがあるため、生を受けた背景や世に認知されるようになるまでのプロセスなどについて、多くは語らない方針を取っている可能性があります。
SNSやYouTubeを中心に活動の場を広げていますが、最初に動画が投稿されたのは2019年のこと。すぐに爆発的なバズが生じ、急速に認知が広がったわけではなく、こまめな更新と独特の世界観から早々にコアなファンを取得し、じわじわ拡大していった印象です。
現にYouTubeに最初にアップロードされた動画「パペットスンスン #1『スンスンのひみつ』」には、今年2025年に入ってから遡って視聴したユーザーから寄せられたコメントも多く見られます。
というのも2025年の活躍ぶりは前年までの比ではなく、それまで以上に一気に注目を浴びることとなったためでしょう。
参照:YouTube[PUPPET SUNSUN / パペットスンスン]パペットスンスン #1「スンスンのひみつ」
それまでもグッズやLINEスタンプなどは販売されていましたが、2025年に入ってからは特にそのクリエイティブの領域を伸ばしているのです。
【他ブランドとのコラボレーション】

【企業キャンペーン起用】
【アーティスト スンスンとしての活動】
参照:The Orchard Japan(PR TIMES)「リリースから半年経過も勢い止まらず!!「パペットスンスン」デビュー楽曲『とてと』の楽曲再生が1,000万突破!」
これでも2025年に実施された企画のうち一部を抜粋しているので、驚くべきトピック数です。
なかでもGUとのコラボレーションは大きな話題を呼び、発売前からアクセスが集中するのを避けるために販売数に応じて追加予約を受け付けることが発表されていたにもかかわらず、その追加予約分まで完売となるアイテムも続出しました。
また先述のとおり、グッズ展開やアパレルブランドとのコラボ実施は人気のあるキャラクターIPとしては珍しくないことですが、楽曲配信デビューしたり、テレビやラジオ番組に出演したり、アーティストとして活躍の場を広げているのは稀有なケースといえるでしょう。
もとよりスンスンは映画や漫画に興味があり、それをきっかけに映像や漫画作品の表現を始めたと公言しているので、最初からコンテンツに登場するキャラクターとして誕生したわけではなく、一人のクリエイターとして活動を始めたと捉えるべきです。
そしてそのことこそが、SNS上だけで完結しない奥行きのあるキャラクター設計を実現させた秘訣といえるので、次のセクションからはその世界観の作り込み方について触れていきたいと思います。
繰り返しになりますが、スンスンはキャラクターというよりもクリエイターとして独立した存在感を放っています。
『FNS歌謡祭 2025』には、“人間以外”でいうとガチャピンとムックも出演することが決まっています。
彼らの場合は、もともとフジテレビの子ども向け番組『ひらけ!ポンキッキ』のキャラクターとして生まれ、着ぐるみの姿のまま言葉を発し、さまざまな体験をしてきたため、パフォーマーとして登場してもさほど違和感は覚えないのではないでしょうか。
さらにいうと、『ひらけ!ポンキッキ』も『FNS歌謡祭』もフジテレビ系列の番組であるため、自局の生み出したキャラクターを自局の他番組にも出演させるといった位置づけであると考えられます。
一方スンスンの場合、フジテレビとの関わりを挙げるなら、先述のとおり『めざましテレビ』にて毎週水曜日にショートムービーが放送されているとはいえ、CHOCOLATE CHARACTER LABELが生み出したキャラクターです。
いうなれば、レギュラー出演している番組と同じ局の別番組に出演する、といった具合でしょう。それはまるで人間のタレントと同じです。
スンスンの各SNSやYouTubeに公開されている作品も、友だちや家族とのやりとりを映した、いわゆる日常系コンテンツであり、その世界観はSNS開設当初から一貫してブレていません。
このたびのテレビ出演は、その設定に“のっかった”かたちといえるでしょう。その整合性こそが没入感を生み出すことに成功し、ファン拡大につながっていると考えられます。
テレビ番組やましてやラジオ番組に出演するには、ビジュアル面だけでなくサウンド面においても確立されたキャラクター性が求められます。
スンスンはSNS開設当初から祖父のゾンゾンや友だちのノンノンらとのトークコンテンツを発表しており、その印象は声や話し方もともに結びついているといえるでしょう。
特にスンスンの象徴ともいえる「ふわぁ」という口癖は、あまり動画を見たことがない方にも知られているところではないでしょうか。
ひと目、“ひと聞き”でスンスンとわかる強固なアイデンティティは、人間のミュージシャンやタレントがライバルとなりえる媒体においても大きな武器となり、クロスメディア展開の際には応用力を発揮するはずです。

スンスンのクロスメディア展開に目を向けると、デジタルと物理のコンテンツを効果的に活用するという、流行を生む立体構造が浮かび上がります。
最初にスンスンが現れたのはYouTubeの中。
デジタルコンテンツとして平面化された世界でじわじわと人気を拡大していった先に、公式グッズの展開のみならず、GUを筆頭に数々の他社ブランドとコラボしてアパレルや雑貨を発表したことによる“触れられる”“身につけられる”コンテンツ化がありました。
さらに公式ショップから販売されているぬいぐるみ商品も好評で、スンスンはもともとぬいぐるみのパペットなので、本来の姿に帰結し、そして今度はテレビやラジオといったマスメディアの力を借りて、さらに広がっていきます。
これは、IPを浸透させるにあたって理想的ともいえる波及の仕方かもしれません。いつでも見られるデジタルコンテンツと、一期一会のようなマスメディアのコンテンツを並行させることで、異なるユーザー層に異なる速度で二重に広まっていくのです。
また、グッズを所有することで、身に纏う、持ち歩く、といった参加型コンテンツとして楽しめる側面も持ちます。“参加”したユーザーはSNS上などでシェアする可能性も高く、それによってまた新たな波を生むこともあるでしょう。
それぞれ後述しますが、ぬい活や二次創作、スンスンダンスの真似をして動画を撮影してTikTokに投稿することも、参加できるアクティビティにふくまれます。
単一的な「モノ」として消費するのではなく、体験として新たな創作と結びつくことでカルチャーが生まれ、そしてそれによってIPは社会となりえるのです。
先述のガチャピンとムックのように、着ぐるみの姿で成功しているキャラクターは多数存在します。あるいは、SNS発のキャラクターといえば近年はVTuberやバーチャルアイドルの台頭も著しく、今後ますますIPビジネスは混戦していくことが予想されるでしょう。
なおVTuberについては、以下の記事でくわしく解説しています。
そのなかで、“中の人”と切り離せないそれらとは一線を画すのが、パペットであるスンスンです。繊細な動きをも実現できるうえに、ペットに近しいサイズが“人間くささ”を排除し、庇護欲のようなものも生じさせている可能性を感じさせます。
バーチャルキャラクターの魅力が、非現実的な存在や世界観を疑似体験できることにあるのなら、スンスンはその逆で、キャラクター自身が現実世界に存在することに魅力があるのです。
その点は着ぐるみも同じですが、先述のとおりスンスンには“参加性”があり、それによって一人ひとり異なるスンスンとの思い出を共有できる、いわば“現実の増幅装置”である点に大きな特徴を持ちます。
特にスンスンは6歳であることが公式発表されており、その年齢ならではの好奇心や関心、疑問を軸にストーリーが展開されます。思わずキュートアグレッションを起こしてしまいそうな子どもらしさは、年齢や性別を問わず受け入れられやすいでしょう。

やはりスンスンブームを語るうえで欠かせないのが「ぬい活」文化です。ぬい活とは「ぬいぐるみ+活動」を意味する言葉で、ぬいぐるみをバッグにつけて持ち歩いたり、日常的に食事や旅行、観光しながら景色などと一緒に写真を撮ったりすることを表します。
2025年の新語・流行語大賞にもノミネートし、数年間にわたってじわじわ広がりを見せていたカルチャーが今年2025年は特に飛躍して注目を浴びたことがうかがえます。
参照:「現代用語の基礎知識」選 T&D保険グループ 新語・流行語大賞
この背景にはラブブをはじめとしたPOP MARTが手がけるプロダクトの影響も強いと思いますが、スンスンブームによる部分も小さくないでしょう。
なおPOP MARTのトレンドを生み出す戦略については、以下の記事で解説しています。
スンスンは青いふわふわした毛並みがトレードマークのキャラクター。ひと目で嫌悪感や不快感を与えかねない要素はなく、ビジュアルそのものは、いってしまえばシンプルな造形をしています。
パペットとしての操作性も加味してのことなのかもしれませんが、手足が細長いのも特徴で、くわえて青×黒×白のみを使用した配色は、子どものみならず大人もとっつきやすいデザインといえるのではないでしょうか。
ミニマルなビジュアルは、写真に収める際も撮影者のセンスが反映されやすいため、自身の感情をのせて表現する余白が残されているといえそうです。
普段からぬい活を行っているユーザーであれば、最大限にその魅力を生かしながら思いどおりのクリエイティブを楽しめるでしょう。
ぬい活はぬいぐるみを持ち歩いて撮影するだけでなく、自分流にカスタムしたり、服やアクセサリーなどを着せ替えたりすることもふくみます。その際、既存のアイテムを使う方もいれば、ハンドメイドが趣味の方であれば、自身で作る方もいるでしょう。
こういった二次創作的なアイデアの創出は、楽しみ方の選択肢を増やしてくれるので、ファンダムの定着にもつながります。
特にスンスンは先述のとおり、余白を残した造形をしているので、雑貨をハンドメイドするクリエイターには申し分のない相棒に映るかもしれません。
もともと持っていた趣味活動を増幅させてくれる存在があれば、相乗効果でどちらも継続しやすくなり、日常の習慣として根づいていくでしょう。

先述のとおりGUとのコラボアイテムは、追加予約分もふくめて即完売という、異常事態ともいえる反響を得ました。
GUは過去にも、ちいかわやハリーポッター、rokh(ロク)、UNDERCOVERなどとのコラボアイテムを発表した際に大きな話題を呼んで即完売、そしてプレミア価格で転売されるといった事象を起こしているので、フリマサイトのメルカリも事前に該当商品が急騰する可能性について示唆し、出品や購入に際し注意を呼びかけるという徹底したトラブル予防策を講じていました。
参照:メルカリ「GU「パペットスンスンとジーユーのコラボレーション」商品について」
ここまでの話題を生んだ理由には、ビッグネーム同士のコラボにより認知が広がりやすかったことだけでなく、スンスンというキャラクター自体がそうであるように、発表されたアイテムのいずれも年齢や性別を選ばず遊び心を感じさせるデザインで、オリジナルの世界観を拡張させることに成功したという点も挙げられるでしょう。
無粋なことをいってしまいますが、MIV(メディアインパクトバリュー。主にファッションおよびビューティーブランドにおいて、あらゆるメディア露出を金銭価値に換算したもの)に見られるように、ブランドのアンバサダーやインフルエンサーのSNS投稿までも数値化されて金銭価値を見出される現代において、経済効果はそのままIPのブランド力になりえます。
スンスンは一貫した世界観づくりにより、ファンとの信頼関係を築きあげ、そのうえでファンを育成しつづけたことで、社会的意義を持つIPとして力を持ちつつあるといえるのです。
ブームというものは、大きくなればなるほど分厚くなっていくという特徴を持ちます。「多くの人から支持を得ている」という事実は、それまで強く関心を示さなかったライト層の購買意欲をも動かす魅力になるためです。
FOMO(フォーモ。情報などに取り残されることへの恐れのこと)という言葉が示すように、社会生活を営む人間は、周りの環境から自身が置いていかれることに少なからず恐怖を抱いています。
関連グッズがすぐに完売し、web上だけでなくテレビやラジオといったマスメディアからも注目されているIPを無視するのは容易いことではないでしょう。
@puppet_sunsun #puppet_sunsun #パペットスンスン #animation #fyp
♬ オリジナル楽曲 - パペットスンスン - パペットスンスン
もはや確固たるファンダムを築いているスンスンは、以前友だちのノンノンと一緒に披露した「スンスンダンス」(上の動画)を真似してTikTokなどに投稿するユーザーが続出するなど、やはりクリエイターとしての顔もよく知られています。
(これほどまでに人気のあるアーティストであれば、そろそろファンネームが作られても不思議はないですが、そういえばまだ聞いたことがありません)
ビジュアルやパフォーマンスだけでなく人格にも好意を抱いた人々が、グッズを購入したり、関連イベントに足を運んだりするとなると、なおさら実在するアーティストの推し活をするのとなんら変わりません。
なお推し活についてくわしくは、以下の記事をご覧ください。
スンスンは頻繁にSNSを更新しており、たとえばXではスンスンに関する最新情報をお伝えする「パペットスンスン情報局」というアカウントと連動して、YouTube更新時やグッズ販売、イベント開催時の告知をしたり、1分未満の短尺動画を載せたり、ファンへの軽い呼びかけのような話題を提供しています。
Instagramは、ショートムービーや写真がメイン。Xと同じコンテンツも見られますが、キャプションがほとんどなく、ハッシュタグだけが並んでいることが多いため、ファンとの交流の場というよりもアーカイブとしての位置づけなのかもしれません。
TikTokでは、それがプラットフォームの特徴でもありますが、やはりショートムービーを軸に展開しています。InstagramとTikTokの使い分けはあまり見られないので、ユーザーに合わせて両方に投稿しているのではないでしょうか。
YouTubeでは世界観を感じられる長尺のムービーがたくさん見られます。初期は祖父のゾンゾンとのテレビ通話がフォーマット化しつつありましたが、そのうちスンスンの描いた漫画によるアニメーション作品やダンスパフォーマンス、シュールなサイレントムービーなど、バリエーションが豊富になってきました。
このように日々“供給”があるため、ファンは飽きることも忘れることもなく、連続ドラマのような感覚で“摂取”する習慣が根づくのでしょう。これは物語のない二次元のキャラクターとして誕生していたら、難しい発展手法です。
ここまでお伝えしてきたことをまとめると、スンスンにはこのような魅力があると考えられます。
キャラクタービジュアルに惹かれる方も、その世界観にはまる方も、ぬい活需要への解決策に見出す方も、SNS上でたびたび目にすることからいつの間にか好感を抱いていたという方も、さまざまいるでしょう。
ファンになる入り口がさまざま用意されていることで、属性や特性の異なる人々が集結することになります。
共通点の多い者同士が集まったファンダムは類似性が高いため、交流しやすい、居心地がよい、といった特徴を持つかもしれません。
一方で、いろんな属性、特性を持った人々によって築かれるコミュニティはどうでしょうか。もしかしたら意見がぶつかってしまうこともあるかもしれません。けれど、それによって互いの視野が広がるという側面も持つかもしれません。
IPの話をしているのでIPを絡めた例を挙げますが、ポケモン同士を戦わせようと思った際に、相手の存在が見えなければ、できる限りあらゆる属性を網羅したマルチなパーティーを設定するのではないでしょうか。そのほうが総合力が強化され、さまざまな状況に応じて対応しやすいからです。
実際、ブランディングにおいて敵はいませんが(あるいは競合ブランドが敵だと考える方もいるかもしれませんが)、コミュニティの組織力の底上げを狙うのであれば、セグメントせずにあらゆるユーザーを引き入れたほうが、その方たちがさらなる新規開拓のきっかけになる可能性もあるため効率的でしょう。
スンスンブームが生まれた背景は、ビジュアルや世界観だけでなく、ぬい活といった文化と絡み合ってユーザーが“参加”できることで、いつまでも完成せず成長しつづけるところにあるといえるでしょう。
最近はアーティストとしての活躍もめざましいスンスンですが、推し活の醍醐味はやはり、アーティストから発信される情報を一方的に受け取るのではなく、SNS上で推し本人やほかのファンと交流したり、能動的に関連コンテンツを取り入れて応援することにあります。
体験と結びついた自身の思いは記憶にも印象にも残りやすく、それがまた新たなポジティブな感情を生み出すことができれば、SNS上などで他者と共有し、スンスンというIPをより強固にする作業を“協働”するようになり、一層ファン化も進むはずです。
ただのキャラクターではない、そしてただのアーティストでもない、スンスンだからこそ持ちうる魅力が生んだ、ファン一人ひとりの心に宿る愛着が形象化した結果、このたびのようなビッグウェーブが生まれたのでしょう。
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