IP活用

当メディアSkettt Columnは日々渋谷のオフィスから情報を発信しているのですが、2025年末現在、ディズニープラスの広告にジャックされた渋谷駅地下通路と渋谷55ストリートビジョン(並んだ柱に設置されたデジタルサイネージ)を日々眺めています。
『旅するSnow Man』やミッキーのベストフレンドによる『King & Prince: What We Got ~奇跡はきみと~』、『ディズニー ツイステッドワンダーランド ザ アニメーション』など、改めて日本発コンテンツが増えたことを実感。
先日行われたディズニープラス最大級のラインナップイベント「ディズニープラス・オリジナル・プレビュー2025」においても、日本を「消費市場」ではなく「物語供給源」として捉えているといった旨の発言があり、また2000年代後半から「おとなディズニー」と称して日本市場に向けた独自の戦略を実施してきたことも知られています。
ではなぜ今、ディズニープラスおよびウォルト・ディズニーブランドは日本に注力しているのでしょうか。

タレント×マーケティングで
成果を最大化

ウォルト・ディズニーが日本のコンテンツに注力する理由は主に4つ考えられます。
まずは東京ディズニーランドが世界で3番目に作られたディズニーテーマパークであるなど、ディズニーと日本の関係はもとより密接であったこと、アニメを中心に日本のクリエイティブは世界的に高く評価されていること、日本にはキャラクターIPが生活者の日常に浸透する地盤があること。
そしてディズニープラスが単なる動画配信サービスではなく、IPを育成・循環するプラットフォームであることも挙げられるでしょう。
日本には現在東京ディズニーランドと東京ディズニーシーという2つのテーマパークが存在しますが、東京ディズニーランドがオープンしたのは1983年。
1955年に米カリフォルニアにディズニーランド、1971年に米フロリダにウォルト・ディズニー・ワールドが開園した次のことなので、世界で3番目に作られたことになります。
参照:東京ディズニーリゾート「ウォルト・ディズニーの見た夢」
米国以外で建設された初めてのディズニーテーマパークだということを考えると、ウォルト・ディズニーがいかに、かねてから日本に目を向けていたかがわかるのではないでしょうか。
なお、東京ディズニーリゾートにおけるマーケティング戦略については、別途以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。
また、ライセンシングや新規プロダクト開発といったリテール分野においても、ディズニーストアをはじめ日本市場独自の戦略を進め、大規模かつ安定した事業を築いています。
それまで本国と同じく子ども向けに展開してきたマーケティング戦略を2008年ごろより当時ライセンス部門に属していた中澤一雄さんを中心に「おとなディズニー」と称して、大人世代、特にF1層(20~34歳の女性)とF2層(35~49歳の女性)をターゲットに切り替えてローカライゼーションしたところ、大きな成果をあげることとなったのです。
参照:PRESIDENT「こんなに「大人が集まるディズニーランド」は日本だけ…子ども向けだった「雑貨」を日本人女性が夢中で買うワケ」
事実、子どもをターゲットにした商品だと購買に至る決定権は両親をはじめ他者に委ねられますが、F1層やF2層であれば自由に自身の判断で好きなタイミングに好きな商品を購入することができるため、これまで見つけられていなかったホワイトスペースの開拓につながったのでしょう。
これは、今日のディズニーストアなどで見かける顧客層や実際に販売されているプロダクトを見てもわかるのではないでしょうか。
本国では子どもやファミリー層から支持されているのに対し、日本では成人(特に女性)の顧客が多く見られ、ディズニーキャラクターのキーチャームをバッグにつけたり、日常的に雑貨を使用したりしている方はとても多いです。
むしろ今やその状況が定着していて、2000年代後半まで大人向けのプロダクト開発に注力していなかったことが信じられないくらいですが、当時のこの方向転換はやはりウォルト・ディズニー社内でも話題を呼び、本社や他国の支社でも学ぶ機会が設けられ、「おとなディズニー」「ザッカ」は共通語になりました。
いわずもがなアニメや漫画、ゲームを中心に日本の作品は、世界的に高い評価を受けており、あらゆる地域にファンを抱えています。
好きな日本のアニメ作品をきっかけに来日し、作中に登場する場所に“聖地巡礼”するというケースも珍しくなく、また海外観光客に向けて漫画を制作するワークショップが開かれるなど、日本=サブカル大国という認識を持っている方も少なくないでしょう。
(アニメや漫画、ゲームはもはやサブカルではなくメインカルチャーといえる影響力を持っていますが、便宜上サブカルとしてまとめさせていただきました)
ディズニーコンテンツにおいて特筆すべきは、冒頭の渋谷駅地下通路のプロモーションにも選ばれていた『ディズニー ツイステッドワンダーランド』でしょう。
本作はディズニー作品に登場するヴィランズにインスパイアされたキャラクターが織りなすウォルト・ディズニー・ジャパン発の学園アドベンチャーモバイルゲームですが、アニメーション化され、2025年10月よりディズニープラスにて独占配信されています。
参照:ディズニープラス「ディズニー ツイステッドワンダーランド ザ アニメーション」
原案・メインシナリオ・キャラクターデザインを手がけたのは、全世界におけるシリーズ累計発行部数3,400万部以上を誇る人気コミック『黒執事』(スクウェア・エニックス)を代表作とする枢やなさん。
参照:MANTANWEB「黒執事:10年ぶりテレビアニメ新シリーズ 小野大輔「ご褒美のよう」」
さらにアニメーション制作は『終末のワルキューレⅡ』(2023年〜)を世界的ヒットに押し上げたゆめ太カンパニー×グラフィニカ。
いずれも日本のみならず海外でも評価の高いクリエイターであることから、本作もワールドワイドな視点で企画されたと想定でき、事実、世界150か国以上を対象に配信されています。
また、ゲームや動画コンテンツ、テーマパーク、プロダクト開発・販売など、ファンとのタッチポイントをマルチに保有するウォルト・ディズニーが、全世界に向けて日本発ゲームのメディアミックスを開始したということは、今後さらにさまざまな分野の垣根を越えて大きく波及することが見込めると同時に、その価値をディズニー社が見出したといえるでしょう。
ディズニーキャラクターは基本的に映画などから生まれたものがほとんどですが、その多くは作品から離れ、たとえば作品を視聴したことがなくてもキャラクターのファンになるなど、単体で独り歩きしています。
先に触れたように、日本においてディズニーキャラクターは、子どものみならずF1層やF2層など大人からも支持されており、現在ファッションアイテムから日用品にいたるまで日々の生活に溶け込むようにあらゆるグッズが展開されています。
最近だと2025年9月にリリースされた、ZARAとイギリスのスタイリスト ハリー・ランバートとのトリプルコラボ「AW GEE! WOW」コレクションも大きな話題を呼びました。
ディズニーらしいカラフルな色彩をベースにしたレトロなムード漂うアイテムは、日本国内の店舗では即完売するものも続出し、原宿にて期間限定オープンしたポップアップストアも盛況のうちに終了しました。
参照:株式会社ITXジャパン(PR TIMES)「AW GEE! WOW: HARRY LAMBERT FOR ZARA X DISNEY」
先ほどの情報を補完すると、日本のキャラクタービジネスにおいてファッション、ホームカテゴリやステーショナリーといった分野への展開はいたって一般的ですが、海外ではそうとも限らないそうです。(参照:前出のPRESIDENT)
事実、SNSユーザーの投稿によると、AW GEE! WOWコレクションについてもヨーロッパの店舗では2025年12月頭の時点ではまだSKUが欠けることもなく購入できたという情報もあります。
日本でこんなにもキャラクターグッズが受け入れられるのは、そもそもIP文化の根づいた地盤があるからでしょう。
日本国内に向けたディズニーの雑貨開発が本格始動した2000年代後半、すでに日本にはサンリオという圧倒的な存在感を誇るキャラクターカンパニーが存在しており、漫画やアニメ、ゲームなどから登場した人気キャラクターなども街のいたるところで見かけることができました。
なお、サンリオのマーケティング戦略については、別途以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。
サンリオの代表的なキャラクター、ハローキティが誕生したのは1974年で、最初のグッズ「プチバース」が販売されたのは1975年。初めて映像に登場したのは映画『キティとミミィのあたらしいかさ』のなかで、本作は1981年に上映されたため、キャラクターやグッズのほうが先立って世に出てきたことがわかります。
当然ながらストーリーよりも先にキャラクターを認知する人が多かったと想定でき、そうなると各々の解釈でキティ・ホワイトというパーソナリティを受け止めていたと仮定できるでしょう。(「ホワイト」という姓はあとからつけられたものなので当時はありませんでしたが)
ファン主導のもとそれぞれの解釈によりキャラクターが広まっていき、単体で人気を集めたことでグッズの展開も加速し、結果として暮らしに定着するという浸透力は、日本独自のものと考えられます。
ハローキティやそのほかのサンリオキャラクターに限らず、たとえば『ワンピース』や『セーラームーン』など物語先行の登場人物においても、他国と比べて二次創作が活発に行われるなど、やはりそれぞれの解釈によってキャラクターを受け入れる土壌が養われているといえそうです。(くわえて、それらのグッズもすでに生活圏にとてもよくなじんでいます)
ウォルト・ディズニーはこの点に個性を見出し、消費市場としてではなく、IPを強化するうえで鍵となると見込んだのではないでしょうか。
2025年11月、香港ディズニーランド・リゾートにてラインナップイベント「ディズニープラス・オリジナル・プレビュー2025」が開催されました。
毎年秋にAPAC(アジア太平洋地域)のメディア向けに作品発表会が実施されるのですが、今年はなんといっても、その名のとおりディズニープラスに焦点を絞っている点が特徴。今後のディズニープラスの改革に注力していることがよく伝わります。
2025年度第4四半期(2025年7月〜9月)終わりの時点でディズニープラスの会員数は約1億3,200万人(セット入会を実施しているHuluと合わせると約1億9,600万人)に達しており、前四半期から380万人増加。
ストリーミングサービスの王者Netflixと比較すると、こちらは2024年12月の時点(現在は最新情報を公表していません)で約3億人に達しているため、その差は大きく感じるものの、Forbesの見立てではいずれディズニーの株価は現在の2倍に到達するなど、双方の差は縮まっていくと発表されています。
参照:Forbes JAPAN「ディズニー、2000億ドル規模の逆転劇は「ストリーミング事業」という魔法が起こす」
というのも、広告付きプランへの登録促進によって広告収入とサブスク利用料のどちらも確保するなど、すでにマーケティングコストの最適化が進められているからです。くわえて、配信コンテンツを強化することで安定した会員数の基盤を整備してもいます。
そもそもウォルト・ディズニーの強みは、ストリーミングのみに限定されません。自社映画スタジオによるコンテンツ制作、テーマパーク運営、プロダクト開発、そして魅力的なキャラクターIPの設計・保持など、ユーザーとのタッチポイントは他社と比較しても圧倒的に多いといえます。
そこで先ほど触れた『ディズニー ツイステッドワンダーランド』の話に戻ると、本作のアニメ作品はゲームファンのみならず高い人気を誇り、ゲームへの回帰やグッズへの伝播など、ウォルト・ディズニーというブランドに接触する機会を増幅させる入り口としての役割も担っています。
また、ほかに日本発のモバイルゲームから広がったケースを挙げるなら「LINE:ディズニー ツムツム」も忘れてはいけません。
2014年1月に日本にて先行リリースされ、現在は欧米市場および東アジア市場を中心に154の国と地域で公開されている人気作で、10周年を迎えた昨年2024年1月時点でまだまだダウンロード数を伸ばしており、月間MAUも2位以下に大差をつけてトップに躍り出ています。
参照:ファミ通App「『ツムツム』リリース10周年を迎えた1月は収益・ダウンロード数が大幅に上昇。日本のモバイルゲーム全体の月間アクティブユーザー数においてトップに」
当記事執筆中の12月26日(金)より、ミッキーのベストフレンドであるKing & Prince(くわしくは後述します)が出演するCM「LINE: Disney Tsum Tsum 12周年ANNIVERSARY」篇も放送開始され、こちらも早くもSNSを中心に話題になるなど、注目する人口の多さは安定しています。
本作についても、ディズニープラスにてアニメーション作品が配信されているほか、アミューズメント施設のプライズをはじめ、キーチャームやステーショナリーなど幅広くグッズも展開しており、また頻繁に新しいキャラクターが登場するため、そのキャラクターの出自となる映画やアニメーション作品へ流入するきっかけになるなど、ウォルト・ディズニー内での回遊を成功させています。
ディズニープラスに話を戻すと、先に触れた「ディズニープラス・オリジナル・プレビュー2025」にて、今後はアニメのみならず実写領域においても日本発のコンテンツを強化していくことが発表されました。
真田広之さん主演・プロデュースによって2025年ゴールデングローブ賞®最多4冠達成&日本人歴代最多受賞を果たした『SHOGUN 将軍』のように、人々を熱狂させる作品が今後も多数輩出されることが期待されます。(なお同作についてはすでにシーズン2の制作が決定しています)
参照:ディズニープラス「真田広之主演ドラマ『SHOGUN 将軍』がゴールデングローブ賞を受賞!作品賞を含む最多4冠達成!」
世界的に高い人気、評価を得る作品の制作・発表、そしてその作品を軸にした他ジャンルへのマルチ展開を可能にしていることから、ディズニープラスは単なるストリーミングサービスではなく、IPを育成し、循環させるプラットフォームだといえるのです。
そのうえで、日本発のコンテンツを強化していくことが公式発表されたということは、ローカライゼーションではなく、あくまでグローバル展開を見据えたうえでの起点として選出されたといってよいでしょう。
ウォルト・ディズニーを代表するキャラクターとして、きっとほとんどの方が真っ先に思い浮かぶミッキーマウスが初めて登場したのは映画『蒸気船ウィリー』(1928年)のなか。
同作は著作権保護期間が終了し、パブリックドメインとなり(ミッキーマウス自体がパブリックドメインになったわけではありません)ホラー映画が二次創作されたことも話題になりましたが、きたる2028年にはミッキーマウスが100周年を迎えることになるため、さらに世界中を賑わせることになりそうです。
そして、そのセレブレーションイヤーに向けてウォルト・ディズニーが打ち出したグローバルキャンペーン「ミッキー&フレンズ・イン・リアル・ライフ」が今年2025年より本格的に始動しました。
スタート地点に選ばれたのは、なんと日本のカルチャーの発信地・渋谷。くわえてKing & Princeがミッキーマウスのベストフレンドとしてディズニー公式YouTubeとKing & Princeのライブ公演(発表時のみYouTube公式チャンネル内で生中継)にて同時発表。
(ベストフレンドが公式発表された際のKing & Prince LIVE TOUR 24-25 ~Re:ERA~ in DOMEの一幕)
さらに8月には、ミッキーの新オフィシャルテーマソングとして、コラボ楽曲「What We Got ~奇跡はきみと~」(以下、WWG)をリリース。
日本人アーティストがディズニーとともにミッキーのオフィシャルテーマソングを制作するのは初めてのこと。同じく日本人アーティストがアニメーションのミッキー&フレンズとMVで共演するのも初めてということで、大きな話題を呼びました。
MVにはおふたりの発案により“隠れミッキー”も複数登場し、SNS上ではミッキーマウスとKing & Prince、どちらのファンもそれらを見つけるのを楽しみながら視聴している様子が多く見られました。
8月にはSHIBUYA TSUTAYAにてポップアップストアをオープンさせ、ミッキー&フレンズのアイテムのみならず、King & Princeのおふたりがウォルト・ディズニー・ジャパンに所属するディズニーアーティストの神田茂樹さんにレクチャーしてもらいながら描いたミッキーマウスのイラストやWWGのジャケット写真をモチーフにしたアイテムなども多数展開。
(おふたりが実際にドローイングしている様子を配信したInstagramライブのアーカイブ)
12月現在(2026年1月4日(日)まで)は、第2弾として商品展開も一新させたポップアップストアと公開中の映画『ズートピア2』をはじめとしたディズニー作品にちなんだイルミネーションが楽しめる“MARUNOUCHI BRIGHT HOLIDAY 2025 「Disney JOYFUL MOMENTS」”と題したホリデーイベントを丸の内エリアにて開催しています。
参照:三菱地所プロパティマネジメント株式会社(PR TIMES)「“MARUNOUCHI BRIGHT HOLIDAY 2025「Disney JOYFUL MOMENTS」”」
渋谷からは離れましたが、イベント開始の際にはメイン会場に設置されたモニュメント「MICKEY&FRIENDS CEREBRATION TREE」の点灯式にKing & Princeのおふたりが登壇。引き続きミッキーマウス、ひいてはウォルト・ディズニーとの密接な関係がうかがえます。
そもそもこの「ミッキー&フレンズ・イン・リアル・ライフ」の着想源は、徐々に辛くなっていくチキンウィングを出演者が食べながらインタビューに答えるという、アメリカで人気のYouTube番組『Hot Ones』にミッキーマウスを出演させたいと考えた同キャンペーンの仕掛け人ティム・ペイノヤー氏によるアイデア。
そのため、ミッキーマウスが現実世界で実在する人間と並んで、一緒になにかを楽しんでいる様子を発信することはマストだったと考えられます。そのうえで、このロケーション選びと人選は、ウォルト・ディズニー社から日本へのラブコールだと感じざるをえません。

ここまでウォルト・ディズニーが現在日本発のIPやコンテンツにリスペクトや共感を抱いていることについて言及してきました。
では、ミッキーマウス100周年のキックオフ「ミッキー&フレンズ・イン・リアル・ライフ」の起点に渋谷が選ばれたのは、ポップカルチャーの発信地であることからかと推測できますが、King & Princeがミッキーマウスのベストフレンドなのはなぜでしょうか?
前述の「ミッキー&フレンズ・イン・リアル・ライフ」の仕掛け人であり、ウォルト・ディズニー・カンパニー ブランド・マーケティング・ディレクターのティム・ペノイヤー氏によると、おふたりが幼少期からミッキーのファンであったことにも触れつつ、アーティストとして素晴らしい実績と評判があることを知り、ミッキーに新鮮な視点をもたらしてくれると確信していたと発言されていますが、もう少し深掘りしてみましょう。
ウォルト・ディズニー社は、いわゆるタレントなど著名人の「アンバサダー」を起用していません。1965年からテーマパークのアンバサダーは存在しますが、当時ウォルト・ディズニー氏があまりに多忙だったため代わりにディズニーランドを紹介、案内する目的で設けられたので、今日多くの他社ブランドで聞かれるアンバサダーとは役割が異なるでしょう。
参照:東京ディズニーリゾート「東京ディズニーリゾート・アンバサダー」
なお、アンバサダーの意味とタレントなど著名人がアンバサダーを務める効果については、以下の記事にてそれぞれくわしく解説しているので、あわせてご覧ください。
そのうえで「ベストフレンド」という名前は、あくまでもミッキーマウスと対等の立場であるというメッセージを感じ取れます。
「僕らのクラブのリーダーは〜」で始まる、あまりにも世界中に浸透している「ミッキーマウス・マーチ」に代わる新たなテーマソング「What We Got ~奇跡はきみと~」は、2016年に発表されたディズニーソング「What We Got (Mickey's Birthday Song)」を下敷きにオリジナルアレンジを加え、さらにKing & Princeのおふたりが日本語訳詞を手がけたことで完成しました。
原曲では「A sunshine type of way」というフレーズで統一されているサビ部分が「魔法をかけて」「奇跡はここで」と、まったく異なる意味合いの言葉に変えられているなど、こだわりを感じる点は多数存在します。
パフォーマンスの際には、それまで自由に踊っていた髙橋海人さんに永瀬廉さんが魔法をかけることでおふたりのダンスがそろうという振り付けで、ミッキーマウスが魔法使いの弟子に扮する傑作映画『ファンタジア』(1940年)を想起させつつ、アイドルならではのチャーミングさを融合。
実際、歌詞についておふたりは「“これからも一緒に素敵な魔法や奇跡を起こしていこう!”と、ミッキーが横で一緒に語りかけてくれるようなイメージ」(永瀬さん)、「身近に感じられるような世界観でありながら、ファンタジックな言葉も使うことで、ミッキーならではのハッピーで魔法がかかるような世界観も表現しています。」(髙橋さん)と発言しており、原曲に頼らず、ご自身たちの言葉を紡いでいることがわかります。
参照:ディズニー公式サイト「ミッキーマウスの新たなオフィシャルテーマソング「What We Got ~奇跡はきみと~」
ここで浮かび上がるのは、「ベストフレンド=広告塔ではなく共創者」という視点。楽曲やコンテンツをともに創出することができ、そのうえでディズニーブランドとそのファンとも共鳴できる存在であることが求められていたと考えられるのではないでしょうか。
実際、前出の公式サイトに掲載されているおふたりからのコメントを見てみると、「僕らのファンの方々はもちろん、ディズニーのファンの方々にも楽しんでいただきたいのですが、なにより僕らが一番楽しみました。」(永瀬さん)という言葉や「オマージュがたくさん詰まっているので、ミッキーが好きな人たちも、“うわー!”と思ってくれるんじゃないかなと期待しています。(中略)子どもから人生のベテランの方まで、誰でも踊れるような曲と振り付けになっていると思います!」(髙橋さん)など、いろんな方々が共感して楽しめるように、という思いを込めて作られたことがわかるでしょう。
King & Princeといえば、先日12月24日(水)に新しいアルバム『STARRING』をリリースしましたが、前作『Re:ERA』のリリースからほとんど間を置かず、約1年間にもわたって企画を進行してきたという本作は、冒頭部分の髙橋さんによる歌唱とダンスがSNS上でバズり、リリース前にSNS再生回数1億回を突破したリード曲「Theater」をはじめ、随所に創意工夫が見られます。
(こちらが真似する人も続出している「Theater」のMV冒頭部分)
というのも、「映画」をテーマにしたコンセプトアルバムということで、収録されている全12曲それぞれをイメージする架空の映画のポスターと特報映像を作るというこだわりっぷり。
映像は映画『サマーフィルムにのって』(2021年)などで知られる松本壮史監督らが手がけ、ポスターも19歳で高校時代に撮影した写真集を刊行して以来、「JR SKISKI」の広告や雑誌などで活躍しつづけている石田真澄さんらが手がけるなど、盤石の布陣で臨み、その内容もSFやラブコメ、タイムリープ、アクションと幅広く、自分たちのイメージを実現させるクリエイティビティの高さを感じます。
こういった点から、すでに全世界におけるスーパースターであるミッキーマウスのさらなる共感装置を生み出すために、King & Princeのおふたりが選ばれたのではないでしょうか。
ちなみに以前よりファンの間では「双子」と呼ばれるほど体格やシルエットが似ていることから、ディズニーキャラクターのチップとデールのようだといわれることも多く(ただしチップとデール自体は双子ではありません)、クリエイティブ制作の際に親和性が高いという利点もあったのではないかという点も書き添えておきます。
4/2は #チップとデール のお誕生日!🐿🎂🐿
— King & Prince (@kp_official0523) April 2, 2025
もしKing & Princeの2人がチップ&デールだったら... 🤭💭
🟤 しっかり者で計画派なチップは...?
🔴 おちゃめで自由人なデールは...?#どっちがチップどっちがデール#ハッピーバースデーチップデール#チップとデール#れんとかいと pic.twitter.com/UbjEycyMKu
(ベストフレンドの発表前、チップとデールの誕生日に“匂わせ”投稿していたKing & Prince)
(チップとデールは基本的に「ミッキー&フレンズ」の中にはふくまれないのですが、“ベストフレンド”との共演の際にはたびたび一緒に登場しています)
ベストフレンドとしての活動は、先述したLINE:ディズニー ツムツムのCM出演や「ミッキー&フレンズ・イン・リアル・ライフ」関連イベントへの参加など、さまざま挙げられますが、やはり代表的なのはコラボ楽曲「WWG」の創作でしょう。
2025年末の第76回NHK紅白歌合戦でも披露されることが発表されており、普遍的なメディアともいえる楽曲があるからこそ一時的なコラボではなく、多くのファンの体験として残るプロジェクトとして立ち上がったことがうかがえます。
ところで、近年K-POPの世界的影響力が凄まじいですが、実はにわかにJ-POPも盛り上がっているのをご存じでしょうか。その理由にはアジア人気、ひいては日本人気が高まっているという時代背景も挙げられますが、メロディーのユニークさにもあります。
いわゆる歌謡曲時代から脈々と受け継がれてきた作曲手法には、日本独自に進化したものも多く見られ、たとえば多くの欧米音楽が4つのコード進行を繰り返して作られるのに対し、日本の楽曲の場合は最初から最後までコードを変え続けることも珍しくありません。
これにより、一見明るく感じる曲であっても、複雑な感情を思い起こさせることが可能になるというわけです。こういった技術が醸成されつづけてきたのは、ピアノの普及率がトップクラスであるなど、かねてより楽器と慣れ親しむ環境が素養となっていると考えられます。
「いとしのエリー」(サザンオールスターズ)や「BEHIND THE MASK」(YELLOW MAGIC OHCHESTRA)など、海外アーティストにカバーされる楽曲も多く、ひとたびYouTubeで検索をすれば、邦楽を聴いて感動する外国人のリアクション動画をたくさん見つけることができます。
特にシティポップは人気が高く、アメリカのネット掲示板Redditを覗くと、日本のシティポップをサンプリングして作られた自国の楽曲をそうとは知らずに聴いており、あとから日本発のメロディーだったと知るケースも少なくないようです。
つまりウォルト・ディズニーの本社があるアメリカを中心に、J-POPを受け入れる地盤は整っているといえるでしょう。
そのうえで、2025年現在も多くのアイドルが日々さまざまな場面で活躍していることからもわかるとおり、日本にはアイドル文化が根づいています。
彼ら、彼女らは多くのファンを抱え、そのメッセージは直接人々の心に届くケースもあれば、ファンを介して、さらに多くの人々へ広まるケースもあるのが特徴です。こうして共感が即時に連鎖して波及していくことで、露出の速度も高まります。
もちろんKing & Princeのおふたりについても例外に漏れず、特におふたりの場合は日本のみならずアジアまでファンダムが広がっていることから、日本市場のみに強みを持つのではなく、世界へ響く拡散力を持っており、その点に期待が寄せられたと考えられるでしょう。
少し話が変わりますが、先般12月11日(木)、ウォルト・ディズニー・カンパニーがOpenAIと提携したことが発表されました。
これにより3年間は生成AI「Sora」や「ChatGPT Images」にプロンプトを入力するだけで、ディズニーやマーベル、ピクサー、スター・ウォーズといった200以上のキャラクターを用いた動画や画像を生成することができるようになります。
これまで著作権等ライセンス盗用の観点から、IPホルダーはAI企業と対立構造にあると考えられてきましたが、今回の契約は、ライセンス料ではなく10億ドルの株式投資のほか、追加の株式購入権(ワラント)の取得といった取引で実現。
つまり、OpenAIが成長すればするほど、ウォルト・ディズニー社の保有する株式の価値向上、ひいては同社の利益につながるということです。
また使用範囲もしっかり保護されており、ブランド毀損のリスクを最小限に抑えたうえでユーザーの新たなアイデア創出を促すことを可能にしました。なお、生成された動画の一部はディズニープラスで視聴できるようになるそうです。
参照:OpenAI「ウォルト・ディズニー・カンパニーと OpenAI、ディズニー各ブランドの人気キャラクターを Sora で利用可能にする画期的な合意を発表」
当記事の「日本発」というテーマとは少し離れてしまいましたが、世界最大級のIPカンパニーであるウォルト・ディズニーがAI時代に選んだひとつの回答として見逃すわけにはいかないでしょう。
また、これまで雑貨の開発によってキャラクターを人々の生活に溶け込ませてきたことを考えると、今回の生成AIとのタッグによって、さらに多くの人々の暮らしに浸透することが予測されるので、地続きの話ともいえます。
長らくIP大国と呼ばれつづけてきた日本は、世界的に人気の高いIPを多く保有している一方で、その管理・運営を行っている企業が大きな資本を持っていない傾向にあるため、ウォルト・ディズニー社のような選択は難しいですが、そろそろAI時代の対応策を提示するべき時が来たのかもしれません。

これまで述べてきた話をまとめると、ウォルト・ディズニーは日本発コンテンツを強化させることで、その感性やクリエイティビティを取り込んだうえで、新たなIPを育成・循環させ、King & Princeがミッキーマウスのベストフレンドになったことで共感と共創を推進してきました。
くわえて楽曲のリリースによって、“鑑賞”という一方的な楽しみ方だけでなく、だれもがともに参加できる装置を創出。さらにOpenAIとの提携によって、より身近なウォルト・ディズニーのIPとの接点を作りました。これらによってブランド体験を次のフェーズに高めます。
これまで世界中を巻き込んで大きなトレンドとカルチャーを作ってきたウォルト・ディズニーが、いま新たに日本のIP浸透・推進力とともに歩むことで、これまでにない物語の世界地図を描き替えようとしているといえるかもしれません。
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