マーケティング戦略

近年、小売店やECサイトが自社の販促スペースを広告媒体として他社に提供する「リテールメディア」が注目を集めています。
たとえば、ECサイトの検索結果や商品ページ内の広告表示、ショッピングアプリのプッシュ通知など、購買直前のタイミングで消費者にアプローチできる点が特徴です。効率的な広告運用を目指す企業にとって、戦略的に活用したい媒体といえるでしょう。

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リテールメディア(Retail Media)とは、小売業者が保有する購買データや販売チャネルを活用し、広告主に提供する広告媒体です。Retail=小売、Media=媒体という言葉のとおり、販売の現場そのものを広告媒体として活用する点が特徴です。
近年はコンビニなどの店内サイネージ上で放映される広告などが注目されがちですが、ECサイト上に設置されたバナー広告や購買履歴に基づくターゲティング広告なども代表的です。こうした施策は、購入のタイミングに合わせて効果的にアプローチできるため、広告効果の最大化につながるでしょう。
店舗内や店頭に設置されるサイネージなどの広告については、以下の記事で詳しく紹介しています。
こうしたリテールメディアは、小売企業がメディア化することにより広告収益を得る、新たなビジネスモデルとして注目されています。
海外ではAmazonやWalMart、国内ではイオンやセブン&アイ・ホールディングスなどが代表的な事例です。
国内市場も成長が顕著で、株式会社CARTA HOLDINGSの調査によれば、2024年のリテールメディア広告市場は4,692億円、2028年には約2.3倍の1兆845億円に拡大すると予測されています。
EC事業者だけでなく、店舗事業者も参入環境を整備しており、今後市場はさらに活性化する見込みです。

リテールメディアは、消費者の購買データを活用して、より精緻な広告配信設定を可能にする仕組みです。具体的には、POSデータ、会員情報、アプリ利用履歴などをもとに、どのタイミングでどの商品に関心があるかを分析し、個々の消費者に最適化された広告を届けられます。
企業は小売店を通じて、購買直前のタイミングで広告を効率的に届けることもできます。たとえば、ECサイト上で過去に閲覧した商品や関連商品が表示されるバナー広告、店舗アプリに送られるクーポン通知などは、いずれもこの仕組みを応用した例です。
従来のデジタル広告は、Web閲覧履歴や検索キーワードなど、オンライン上の行動データを活用して配信されてきました。これに対し、リテールメディアは購買データや会員データといった“実際の購入行動”に基づく情報を活用できるため、消費者に合わせた広告配信がしやすくなります。
そのため、広告効果を売上や購買件数といった具体的な指標で測定でき、施策の改善に反映しやすくなりました。また、購買行動に関連した情報を届けられるため、消費者も広告を受け入れやすくなるでしょう。
このように、リテールメディアは購買プロセスに近いタイミングで広告を届けられ、精度の高いターゲティングと効果測定が可能な手法として重要性が高まっています。

リテールメディアは、大きく「店舗内メディア型」「デジタルメディア型」「データ連携型」「クロスメディア型」の4つに分類できます。代表的な種類と活用シーンを見ていきましょう。
来店中の利用者に直接アプローチできる、実店舗ならではのリテールメディアです。代表的なものには、デジタルサイネージ(店頭モニター)、棚前ディスプレイ、店内音声放送などがあります。
サイネージは店頭やレジ前での集客や“ついで買い”を促すのに使え、棚前ディスプレイは特定商品の情報を瞬時に伝えられます。店内音声は売場全体への訴求に効果的でしょう。
これらは、商品の発見から購買までをスムーズに促し、リアル空間ならではの高い訴求力につながります。
なお、音声広告の効果については、以下の記事で詳しく解説しています。
小売事業者が運営するデジタル領域で展開されるメディアです。ECサイト内の広告枠(検索連動型やレコメンド枠)、アプリ内バナーやプッシュ通知、メールマガジンなどが含まれます。
ECサイトやアプリは会員データや購入履歴をもとに、興味関心の高いユーザーに効率的に情報を届けられる点が強みです。メールマガジンはセール情報や新商品案内など定期配信されることが多く、リピート促進に役立つでしょう。
リテール・メディア・ネットワーク(RMN)は複数の小売事業者・メーカー・広告主をつなぎ、購買データを横断的に活用できる仕組みです。
単一の店舗やブランドの枠を超えて配信できるため、より広範囲で精度の高いターゲティングが可能となります。広告主にとっては、媒体を横断した一元的な広告運用が行いやすい点がメリットです。
実店舗の購買行動とデジタル広告を組み合わせる手法です。たとえば、アプリでクーポンを配信して実店舗への来店を促し、購入状況をデータで把握する、といったオンラインとオフラインを組み合わせた広告運用が挙げられます。
位置情報を活用した来店促進施策との連携も容易なので、ジオターゲティングに関する以下の記事もあわせてご覧ください。

リテールメディアは、広告主と小売事業者の双方にさまざまなメリットをもたらす広告媒体です。
小売店が保有する購買データや会員情報などのファーストパーティーデータを活用できるため、精度の高いターゲティングが可能です。
購入を検討中、または購買意欲が高まっている消費者にアプローチできるため、コンバージョン率(CVR)の向上が期待できます。
また、実際の購買データに基づいて広告効果を測定できるため、施策の成果を具体的な数字で確認しやすく、改善につなげやすい点も特長です。
小売事業者にとって、リテールメディアは新たな広告収益源になります。また、広告主との共働を通じて取引関係を強化できるだけでなく、顧客への情報提供をよりパーソナライズ化することが可能です。
ユーザーの購買履歴や来店データを活用して、個々に適した広告やクーポンをタイムリーに届けられ、購買体験の質を向上できるでしょう。リテールメディアを活用すれば、広告収益の拡大と顧客体験の向上を同時に実現できます。

リテールメディアは高い広告効果が期待されますが、導入や運用にはいくつかの課題があります。まず、購買データや会員情報などの個人情報を活用するため、個人情報保護法や各種規制への対応が不可欠です。
データ管理や同意取得の手順を明確にし、プライバシーポリシーを整備することが求められます。また、オンラインとオフラインのデータを統合する際は、情報の正確性やセキュリティ面に配慮する必要があります。
複数の小売業者やメーカー、広告主が関わる場合、データの統一や共有が容易ではありません。
特にリテール・メディア・ネットワーク(RMN)は、それぞれの事業者が独自の指標や形式で広告効果を測定しており、評価基準が統一されていないことも多いため、広告主と小売双方でROI(投資対効果)を正確に設計するのが難しいでしょう。
くわえて、広告運用や分析のための人材や専門知識が不足している場合、ターゲティングの精度向上や施策の改善が十分に進まないこともあります。
クロスメディア型の運用は、データ連携の仕組みや役割分担が不十分だと、効果検証や運用管理が複雑化します。リテールメディアを最大限に活用するには、データ管理・測定・運用体制の課題を整理し、事前に適切な対策を講じましょう。

株式会社グローバルインフォメーションが実施した調査によると、世界的にRMNが拡大しており、国内市場も成長を続けています。
2024年の世界市場は322億米ドル、2030年には558億米ドルに達すると予測されていて、年平均成長率(CAGR)は9.6%に上る見込みです。地域別でみると、日本はCAGR6.7%で安定した成長が期待されています。
参照:NEWSCAST「リテール・メディア・ネットワークの世界市場」
今後の戦略は、実店舗の購買データとオンライン上の行動データを統合し、広告効果やROIの指標基準を整備することが重要です。これにより、広告・販促・CRMを横断的に連携させた統合的なマーケティング施策の設計が可能となり、より精度の高いターゲティングや効果測定が実現するでしょう。
小売事業者と広告主が共働してデータ活用を強化できれば、リテールメディアは統合マーケティング基盤としてさらに進化していく見込みです。消費者体験の向上と収益拡大の双方を狙える戦略として、企業の成長戦略に欠かせない存在となるでしょう。

リテールメディアは、購買データを基盤にした次世代の広告モデルとして注目されています。小売事業者・メーカー・広告主が連携すれば、消費者に最適化された購買体験を提供することができます。
一方で、データ整備や運用体制の構築が不可欠であり、短期的な施策ではなく、長期的な戦略設計をふまえた活用が求められます。今後、消費者体験の向上と収益拡大の双方を狙える戦略として、企業の発展において重要な柱となるでしょう。
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