マーケティング戦略

リテンションマーケティングとは、獲得した顧客との関係を継続的に育て、利用や取引を続けてもらうためのマーケティング手法です。新規獲得コストが高まるなかで、既存顧客の満足度や継続率を高める取り組みは、安定した売上やブランド価値の向上に寄与すると考えられています。
本記事では、実際の成功事例をもとに、さまざまな業界で参考になるリテンション施策の考え方を整理します。自社の取り組みに転用できる視点を見つけるヒントにしてみてください。

タレント×マーケティングで
成果を最大化

近年、多くの企業で新規顧客の獲得コストは上昇傾向にあり、広告やキャンペーンだけで安定的に成果を出し続けることが難しくなりました。
加えて、サブスクリプションや会員制サービスの普及により、売上は「一度の購入」だけではなく「継続利用」によって左右される構造へと変化したこともあり、商品やサービスそのものだけでなく、顧客との関係性の設計そのものが競争力になる場面が増えています。
一方で、既存顧客を大切にする必要性を理解していても、実際にどこから手をつけるべきか、どのような施策が有効なのかを具体的に描けていない企業も少なくありません。
だからこそ、すでに成果をあげている企業の取り組みをひも解き、自社の状況に置き換えられる視点や考え方を見つけることが重要なのです。
なお、リテンションマーケティングの基本的な考え方については、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。

リテンションマーケティングの事例から自社の参考になるポイントを見つけるには、顧客が「利用し続けたい」と感じる体験がどのように設計されているかに注目することが重要です。
たとえばアプリやメールといった接点を増やすだけでなく、参加型の仕組みや利用後のフィードバックなど、顧客との関係性の築き方にも意識を向けるべきでしょう。
なお休眠顧客の掘り起こしをふくめたメールマーケティング手法については、以下の記事で別途くわしく解説しているので、あわせてご覧ください。
また、メールの開封率や利用回数といった短期的なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)だけで評価するのではなく、その取り組みが顧客との関係をどのように積み重ね、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上につながっているかという視点で全体を捉える必要があります。
こうした点を意識して事例を読み解くことで、単なる成功談ではなく、自社の施策設計に応用できる構造として理解できるでしょう。

ここからは、リテンションマーケティングの考え方を取り組みに落とし込んでいる3つの事例を紹介します。それぞれの施策が、どのように顧客の継続につなげているのかという視点で整理しましょう。
星野リゾートは既存顧客との関係構築を重視した運営を行っており、単発の利用で終わりやすい宿泊サービスにおいて、再訪につながる体験設計は、ブランド価値の形成や集客構造のなかで重要な役割を担っています。
宿泊後のアンケートやヒアリングなどを通じて得られる顧客の要望や満足度を、予約状況や顧客管理データとあわせて活用することで、次回以降の対応やサービス設計に役立てているようです。
こうしたプロセスにより、過去の利用履歴や嗜好をふまえた対応が可能になり、画一的なサービスではなく、個別性のある体験が再訪の動機として働く構造がつくられています。実際に、同社ではリピート率20%以上を達成しており、体験設計を軸とした関係構築の成果が表れているといえるでしょう。
また、施設ごとに地域性や文化を反映したコンセプトを打ち出している点も、継続利用につながる要素のひとつです。滞在体験に「その土地ならではの意味」を持たせることで、「次は別の施設にも足を運んでみたい」という関心が生まれやすくなるでしょう。
こういった取り組みにより、価格や利便性といった条件ではなく体験価値を基準に選ばれるブランドとしての位置づけが強まっています。
サブスクリプション型サービスのNetflix(ネットフリックス)は、既存会員の継続利用を中心に設計されたリテンション施策で成果をあげています。
新規会員を増やすだけではなく、解約を抑えて利用を続けてもらうことを目指し、登録後の視聴体験をいかに最適化できるかという点に軸を置いているのです。
アプリやWeb上の再生履歴や視聴時間・ジャンルの傾向といった行動データを継続的に収集、分析し、その結果をもとにトップ画面の表示内容やおすすめ作品の提示を個別に最適化しています。
利用者はサービスにアクセスするたびに「自分向けに選ばれたコンテンツ」が提示される体験を得られる構造です。なお、オリジナル作品も視聴傾向をもとに企画されています。
この設計による効果は、単なる利便性の向上にとどまりません。視聴したい作品がすぐに見つかる状態が保たれることで、利用頻度の維持や満足度の向上につながり、結果として解約の抑制に寄与するでしょう。
この事例から、顧客の行動データを体験価値へと変換するプロセスそのものが、継続利用を生み出しているという点が読み取れます。
顧客の反応を蓄積し、その結果を次の接点に反映させる循環構造は、サブスクリプションサービスに限らず、ECやSaaSなど、利用の継続が成果に直結するビジネス全般において参考になるでしょう。
参考:HelloPM「Netflix Content Recommendation System – Product Analytics Case Study」
スターバックスは、会員制ロイヤリティプログラム「STARBUCKS REWARDS(スターバックス リワード)」を軸に、既存顧客との関係を継続的に深める設計を行っています。
購入額に応じて「スター」が付与され、一定数をためることでドリンクやフード、オリジナルグッズと交換できる仕組みが用意されており、来店に付加価値が積み上がっていく構造です。
単発の購買をゴールにするのではなく、購買のたびに次の来店理由が設計されている点が、このプログラムの特徴でしょう。加えて、会員向けのキャンペーンやイベントなども展開されており、購買以外の接点を通じてブランドとの関係が継続的に育まれる仕組みが整えられています。
顧客との接点は、店頭での購買体験にとどまらず、会員プログラムを通じた継続的なコミュニケーションへと広がっています。スターの付与や特典の案内といった運用を通じて、顧客はブランドとの接点を継続的に持つことになり、購買行動を繰り返すことによって体験価値が自然と向上するのです。
こうした取り組みの結果として、来店頻度や公式サイトの閲覧回数が増加するなど、顧客との接点や利用率の拡大につながっています。価格や利便性だけでなくプログラムへの参加そのものが利用継続の動機になる段階へ移行している点が、この施策の成果といえるでしょう。
会員数は2024年12月時点で1,500万人を突破し、2017年のリリース時から約10倍にも拡大するという速度で増加しています。
この事例が示しているのは、リテンション施策が特典などインセンティブの提供にとどまらず、顧客の「関わり続けている実感」につながっているという点です。
利用の積み重ねが体験や価値として可視化される構造は、飲食業に限らず、会員制サービスやサブスクリプションモデルなど、継続利用が成果に直結するビジネス全般に応用できるでしょう。
参照1:スターバックス コーヒー ジャパン「STARBUCKS REWARDSとは」
参照2:スターバックス コーヒー ジャパン「「Starbucks® Rewards(スターバックス® リワード)」、2025年3月4日(火)よりプログラム内容を一部刷新 500円のeTicketが新登場! チケット交換対象をビバレッジ、フード、コーヒー豆、ティーへ拡大し、広がる選択肢 カスタマイズeTicketは25 Starsで交換可能に。1 Starがたまる買い物額は60円(税込)へ改定」

成功事例に共通しているのは、継続の動機が割引やポイントといった価格に依存していない点でしょう。継続を支えているのは、「安いから使う」という理由ではなく、「この体験を選び続けたい」「このサービスと関わっていたい」という顧客の要望です。
たとえば星野リゾートの取り組みのように、地域ごとに異なる体験価値やコンセプトを前面に出すことで、比較対象が価格帯ではなく、「どんな時間を過ごしたいか」に移ります。
ネットフリックスやスターバックスの事例においては、利便性や特典の提供にとどまらず、利用を重ねるほど期待や愛着が蓄積されるよう設計されているのが特徴です。
こうした成功例が示しているのは、リテンション施策の本質が、コスト競争から抜け出し、選ばれ続ける理由を体験や顧客とブランドとの関係性のなかに組み込むことにあるという点でしょう。
価格競争を脱し、顧客に共感などを促して感情面に訴えかけるエモーショナルマーケティングと通じるところがあります。エモーショナルマーケティングについては以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてご覧ください。
価格は新規顧客にとっての入口にはなっても、継続の決め手にはなりにくいという前提に立って設計されているかどうかが、成果の分かれ目になるといえるでしょう。
リテンションマーケティングを実施している企業においては、顧客との関係構築が一時的な対応だけで完結するのではなく、行動データを起点とした仕組みとして設計されています。
たとえばNetflixの取り組みを見ると、視聴履歴や再生時間といった利用データが蓄積され、その情報が次に表示されるおすすめコンテンツなど画面構成に反映されています。利用するほど体験が更新される構造が、関係性を一度きりの接点ではなく、日常的なものに変化させています。
STARBUCKS REWARDSのように、来店や購買といった行動がスターの獲得や特典、イベント参加といったかたちで還元される設計も、顧客を単なる受け手ではなく、関係を進める「参加者」として位置づける仕組みといえます。
行動が次の体験を生む循環が成立している限り、施策は一過性の取り組みではなくなるでしょう。
リテンションマーケティングを実施している企業においては、商品やサービスの機能そのものだけでなく、そのブランドと関わること自体に意味が生まれる設計がなされています。利用のたびに「何を買ったか」以上の体験が積み重なり、そのまま価値観やライフスタイルの表現になる構造です。
たとえば星野リゾートでは、施設ごとに地域性や文化を前面に出した滞在コンセプトが設計されており、宿泊体験そのものが「その土地とどう関わるか」という物語として記憶に残ります。
旅のなかにおける宿で寝起きする時間が、それ以上の意味を持つ体験として位置づけられる点が、再訪や他施設への関心につながっているといえるでしょう。
スターバックスにおいても、店舗空間や会員向けの体験設計を通じて、コーヒーを飲む行為が日常のルーティンやブレイクタイム以上の意味を持つように設計されています。
こうした事例が示しているのは、継続の背景にあるのが利便性や条件面の比較ではなく、ブランドへの共感であるという点です。積み重なるほど、継続は合理的な判断から意味のある選択へと変わっていくことが期待できます。

リテンションマーケティングの成果は、完成度の高い施策を一度に投入したから生まれるわけではありません。こうした取り組みは短期間で明確な成果を生むものではなく、継続利用やブランドへの信頼は、接点の積み重ねのなかで徐々に形成されるものです。
成功事例を紹介したように、成果を得ている企業は中長期的な視点で取り組みを継続しています。限られた接点で完結させるのではなく、顧客の反応や利用状況をふまえながら設計を調整していくという積み重ねが、顧客のブランドへの愛着につながるでしょう。
この過程で重要なのが、企業側の仮説よりも、顧客の声や行動を起点に次の一手を決める姿勢です。アンケートや利用履歴、日々の接点から得られるフィードバックをもとに体験を更新していくことで、施策は机上の空論ではなく、実際の関係性に沿ったかたちへと進化していくでしょう。
時間を味方につけ、発見と改善を繰り返しながら向き合うことで、リテンション施策は一過性の打ち手ではなく、事業を支える基盤として機能するようになるはずです。

リテンション施策は単発の打ち手で成果が得られるものではなく、顧客との接点を積み重ねることで価値が育っていく取り組みです。成功事例に共通しているのは、企業側の都合ではなく顧客の体験や視点を起点に設計されている点にあります。
また、業界やビジネスモデルが異なっても、継続利用を生み出す構造そのものには共通項が見られます。自社の顧客やブランド価値に照らし合わせながら、無理のない範囲で始めて改善を重ねていく姿勢が、リテンション施策を持続的な成果へとつなげていくポイントとなるでしょう。
サービス資料
ダウンロード

この記事の関連タグ
関連記事一覧あわせてこちらの記事もチェック!
Copyright © 2024 Wunderbar Inc. All Rights Reserved.
IP mag